大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所秋田支部 昭和33年(ラ)3号 決定 1959年2月16日

抗告人 野村福次郎

相手方 角館町議会

主文

原決定を取消す。

本案判決確定にいたるまで、相手方議会が昭和三二年一月一六日なした抗告人を除名する旨の議決の効力を停止する。本件申立に要した費用は全部相手方議会の負担とする。

理由

抗告代理人は、主文第一、二項同旨の裁判を求め、その理由の要旨として、

抗告人は、昭和三一年三月二一日施行された秋田県角館町議会議員選挙に際し、同町議会議員に当選し、爾来引続きその職にあつたものであるが、相手方議会は、昭和三二年一月一六日開会の第一回急施臨時議会において、抗告人が相手方議会の秩序を乱しその品位を傷つけたとの理由で抗告人を除名する旨の議決をなし、同日その旨抗告人に通知した。そこで、抗告人は秋田地方裁判所に角館町議会議員除名議決取消請求の本案訴訟(同庁昭和三二年(行)第二号)(本件は目下貴庁昭和三三年(ネ)第七号として貴庁に繋属中)を提起すると共に、右除名議決の効力の停止を求めるため角館町議会議員除名議決の効力停止の申立(秋田地方裁判所昭和三二年(行モ)第二号)をなしたところ、同庁は昭和三三年一月二七日右申立却下の決定を言渡し、同年四月二三日抗告人に対し右決定正本を送達した。しかれども、右決定は次の理由により不当である。

一、抗告人は、相手方議会は、議員に懲罰を科するに当り適用すべき実体規定を定めた形跡がないので、仮りに、抗告人に何等かの行動があつたとしても、相手方議会は抗告人に対し懲罰を科し得るものではない。

二、角館町選挙管理委員会においては、昭和三四年二月四日委員会を開き、現町長の辞任に伴う後任町長の選挙日程を、(1)告示一〇日(2)立候補締切一八日、(3)投票、開票二二日と決定したが、同時に右日程によつて、抗告人が前記のように除名されたため欠員中の角館地区町議会議員補欠選挙をも行うことに決定し、去る一〇日その旨の告示をなした。ところが、右町議会議員補欠選挙の結果当選者が決定するにおいては、従来の裁判例に徴し、前記本案訴訟(貴庁昭和三三年(ネ)第七号)において、抗告人勝訴の判決を得てもその効なく、むしろ、右本案訴訟は訴の利益を失うものとして訴却下の判決を受けるおそれがある。

三、抗告人は、右除名議決によつて、議員としての報酬、期末手当など一ケ月平均約一、八〇〇円を毎月失いつつあり、除名議決後現在にいたるまで約二ケ年分合計約四三、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失し、将来もこれを失うことが明らかである。

四、相手方議会は、毎月一回位の割合で定例会または臨時会を開会し議案を審議しているのであるが、抗告人は、前記除名議決により相手方議会の議事に関与することができず、ために、相手方議会議員としての基本的権利の行使を、妨げられている状態である。

以上の各事実は、どの一つをとつてみても、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項にいわゆる「処分の執行に因り生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」場合に当るものと認められるから抗告人の申立を却下した原決定を取消し、更に、本案判決確定にいたるまで相手方議会のなした前記除名議決の効力停止を求めるというのである。

案ずるに、疏甲第一号証及び同第九号証の記載によれば、抗告人は昭和三一年三月二一日施行の秋田県角館町議会議員選挙においてこれに当選し、その後引続き議員としての職にあつたのであるが、相手方議会は、昭和三二年一月一六日、第一回急施臨時議会において抗告人が相手方議会の秩序を乱しその品位を傷つけたとの理由で抗告人を除名する旨の議決をなし、同日その旨抗告人に通知したことが認められ、抗告人が相手方議会の右議決を不服とし、秋田地方裁判所にこれが取消を求める本案訴訟を提起したが敗訴となり、当裁判所に控訴し、目下当裁判所昭和三三年(ネ)第七号事件として繋属審理中であること及び抗告人は、右本案訴訟を提起すると共に、秋田地方裁判所に対し、右除名議決の効力の停止を求める旨の申立をなしたが、昭和三三年一月二七日申立却下決定の言渡を受け、これに対し目下当裁判所に抗告中であることは、いずれも当裁判所に顕著な事実である。

次に、抗告代理人提出の昭和三四年二月六日付読売新聞及び証明願と題する書面の記載によれば、秋田県角館町選挙管理委員会においては、現町長の辞任に伴う後任町長の選挙を行うに当り、抗告人除名のため欠員中の角館地区町議会議員補欠選挙をも合せて施行することゝし、昭和三四年二月一〇日、立候補締切日を同月一八日、投票及び開票日を同月二二日と定めてその旨の告示をしたことが認められる。ところで、もし右町議会議員補欠選挙が施行され、その結果新議員が当選するにおいては、その当選の効力は、公職選挙法に定める争訟の結果無効となる場合の外は原則として当然無効となるものではないのであるから、抗告人において、右新任議員の当選または選挙の効力を争う不服申立の手段を採らない限り新任議員の就任は確定し、旧議員である抗告人はその地位に復する余地なく、したがつて、町議会議員除名議決取消請求の前記本案訴訟も、法律上訴の利益を失つたものとして却下を免れないことになるのである(最高裁判所第三小法廷昭和三一年一〇日二三日判決、最高裁判所判例集第一〇巻第一〇号一三一二頁参照)。してみれば、抗告人において、右補欠選挙における当選または選挙の効力を争う不服申立の挙に出でない限り、抗告人の相手方議会議員としての地位は、前記本案訴訟が当裁判所に繋属中にもかゝわらず、右選挙期日の経過ともに確定的に失われ、前記本案訴訟も却下されるばかりでなく、仮りに、抗告人において右当選または選挙の効力を争う不服申立の挙に出でたとしても、抗告人の町議会議員としての任期が、抗告代理人主張の冒頭記載の理由からみれば、僅か一年余を残すに過ぎないものというべきであるから、右不服申立の結果を得られないうちに、任期が満了するおそれもあるのである。したがつて、今や抗告人は、相手方議会の前記除名処分に因つて、償うことのできない損害を蒙ることになるものといわなければならない。しかも、右町議会議員の補欠選挙の期日は、前記認定のように目睫の間に迫つているのである。したがつて、本件においては、抗告人の右損害はこれを避けるため緊急の必要がある場合に当ることも勿論である。されば、抗告代理人主張の右第二の事由はその理由があるものといわなければならない。

よつて、その余の抗告代理人主張の事由についての判断を省略の上民事訴訟法第四一四条、第三八六条にしたがい原決定を取消すこととし、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり決定するる。

(裁判官 松本晃平 三浦克己 小友末知)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例